ブログ流行りの昨今であるが、結局は「知り合い相手の日記公開」となってしまうので書きにくいという話をよく聞く。バーのマスターでも文学部出身の才女でも悩みは同じ様であるが、つまりは「実の自分の、実の日記」を公開しているからなのだろう。実際私がブログ自体を怪訝に思っているのはそこのところで、我が身を切り売りする対価がウエブ上にあるとも思えない。
以前も紹介したが随筆の巨匠・内田百けんが「蜻蛉玉」で書いている。「私というのは文章上の私であって現実の私ではない」。表現者というのはそういうものだろうし、自分も表現者たらんと思うのでそれに倣っている。まあ要するに嘘つきな訳だが、嘘とてそれなりのやり方を心得ていなければ表現として成り立たない。もっとも成り立っているかどうかは読む方の判断に任すしかない。
そういう前振りで良いのかどうか分からないが、3.24付けの本欄で触れた書き下ろしの短編を公開したので興味のある方はどうぞ。例によって"大人向けのすかした恋愛物"なので当サイトの趣味の話がらみをご期待の方にはお応えできないのでご了承を。また原稿用紙約10枚分はwebで読むのにはちょっと長いかも知れない。
本欄の記事で書いた通りこの短編は元々仕事がらみで書いたもので、社内含め概ね公の関係の相手に知られる種類の物である。自分ははなから物書きだという位のつもりで書いているから相手がどう思おうと構わないのだが、見る方にしてみれば違和感位はあるかも知れない。珍しくプリントで人に見せたりもした。
そのプリントを机上に置きっ放しにしていて妻に読まれたらしく、「女を待って呑んでる話なんか書いて」と罵られた気がするのだが、その時は半分寝ていたので幸か不幸かほとんど覚えていない。あるいは夢だったのかも知れない。
そのうち応募先の企業サイトで公開されるらしいが、本稿は応募した物に加筆してありタイトルも異なる。
それから一月後、私はその駅ビルで一人で呑んでいる。たまたま品川での打ち合わせでその日の仕事が終了して、あの時の話を思い出したからだ。結局その後“今度”なんぞは訪れず、彼女からの連絡がある訳でもない。
しかしどうしたものだろうか。いい歳の大人が、来るあてのないオンナを待つ様にしながらぐたぐだ呑んでいる。ちっともスタイリッシュではないのだ。しかし、この感覚の懐かしさは悪くない感じだ。
「行儀良く」より
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■応募規定など
「私と(施設名)とNY」という3つのキーワードを盛り込んだエッセイ・小説。4,000字以内。募集から締め切りまで約3週間。この施設のコンセプトにはNY風を踏襲することの他に、インナー向けに「男・女・酒・ジャズ」というものがあり、本作はそこのところを強調して書いた。そういう意味では関係者だと自ら言っている様なものである。
で、件の作品は賞品を獲得した様である。私としては当然のことだが。勿論受け取れないので妹に進呈する次第。某高級ホテルのペア宿泊券。但し平日泊のみ。どっちにしても使えん。 |