南極の氷

'00.12.12

 「ネットオークションで手に入れた南極の氷で酒を呑む」

 こんなCMを最近やっているが、南極の氷なんて普通 ならどうやって入手するのだろうか? ズブロッカに濡れる丸いロックアイスを眺めながら、最近通 い始めた店でバーテンに訊ねてみた。当然、そんなルートはないと言う。そんな市場は成立しようがないのだ。

 もっとも、「普通なら」とわざわざ書くくらいだから、実は自分は南極の氷で酒を呑んだことが2、3度はある。最近だと先週呑んだばかりだ。銀座のある馴染みのバーでは、運が良ければ年に1回くらいは南極の氷で酒が呑める。常連に南極を通 る船の乗務員がいて、たまに持ってくるのだ。

 しかしそれはあくまで常連客同士のお裾分けであり、ビジネスではない。言うまでもないが、そもそもどこのどんな水でできているかもわからないものを普通 は口になんかするものではない。これが「メナム川の水で作った氷」だったら飲む? 飲まないよね。南極だって別 に大差はない。もっとも、それこそが"ロマン"だという気もする。私は馬鹿か。

 ちなみに南極の氷に味は特にない。無数の気胞が含まれていて、酒を注ぐとしばらくの間「キシッ」とか「パシッ」とか鳴っている。「音楽止めろよ」と笑いながら誰かが言ったが、みな何となくジャズをBGMにグラスに耳を当てたりしながらそのまま呑み続けた。

 南極の氷は、本当にネットで手に入れることができるのだろうか? いやいや、あれを書いたコピーライターは、聖路加に勤めていて、よくあのバーに来ている人に違いない。もし知ってる奴だったら小突いてやろうか。気安くネタにするんじゃないぜって。

聖路加:電通 のこと。銀座に近い。