朝の活気が一段落する時間。会社まで数十メートルのところであらかじめポケットに投げ込んであった100円玉を取り出す。“バナナ屋”の店頭のカゴにはいつもの様に10種類くらいのペットボトルが並んでいる。その中の一つを掴み店に入る。
先客が1人。チャコールグレーのジャケットに地味だが高級そうなシャツを着た五十絡みの男。やけに無邪気な話し方で、店の親父に柿が喰いたいんだと話し掛けている。二日酔いか同志よ。親父が相変わらず聞き取りにくい声で返す。「硬いのなら…。柔らかいのなら柚子柿。そこの、2段目の」。
選択肢があるのか。親父、本当に果物屋だったんだな。私はてっきり、アリバイ代わりに店頭にバナナだけ並べている単なるビルオーナーの暇つぶしだと思っていた。だから“バナナ屋”と呼んでいる。6坪程度の店の奥には、これも言い訳程度にカップラーメンやスナック菓子が並んでおり、棚のスカスカさ加減は大分前に訪れた北京のデパートの香水売り場を思い起こさせる。その果物屋の屋号と同じ名前が8階建てのビルにも付いている。
私はこの店で飲み物しか買ったことがない。500mlペットのドリンクのほとんどが100円。結構な種類があるが、2/3位が100円。商売する気があるのか? 呑み過ぎた日の翌朝は、私は決まってここでスポーツドリンクを買う。だから顔くらい覚えられていそうなものだが、この親父の愛想を聞いたことはないし、それどころか「ありがとうございます」とすら言われた記憶もない。商売する気があるのか?
しかし「柚子柿」ってどんな柿だったか。もとより果物の品種銘柄なぞほとんど関心のない私なのだが、調べてそれは柚子風味の干し柿のことだと知る。…全然果物じゃないじゃないか。菓子だろ菓子。確かに「柿が喰いたい」という客のリクエストには答えてはいる。答えてはいるが、それは果物屋の答えなのか? それがホスピタリティなのか? 私には分からない。 |
今秋はカメムシ大発生の我が家だが、こちらはテラスの物干しに卵生み付け中のカマキリ。まだお尻が繋がっている。発泡コンクリの壁面は毎年カマキリの卵が増えていくのだが、金属部にはやめてくれ…。

そんな訳で不法滞留撤去させていただきました。珍しいカマキリ卵(卵鞘:ランショウ)の裏面。希望者には差し上げますが、屋外保管をお薦めします。 |