酒を呑むのは好きだが、もちろん呑めれば何でも良い訳ではない。と、わざわざ冒頭に書くのは、先週また例の店に仕事で行く羽目となったからである。
あまりに気乗りがしないので、新宿で一度降りてPubで一杯引っ掛けることにした。嫌々の呑みなんだと話すと、「"サカウエ"ですか」とN田さん。そう、"サカウエ"の気の合わないバーテンがいる店で仕事の打ち合わせなのである。その上、玩具を買っていたので荷物が多かった。持っていってそれ何ですかと突っ込まれるのも煩わしいので、ついでに荷物まで預かって貰うことにした。結局、鞄ごと預けて、打ち合わせの書類だけを持って行くことにした。
で、まあ、"サカウエ"での話は置いといて、切り上げてからPubへ戻ると見知った顔がカウンターに。終電はとっくに出ている。こんな時間に知りあいに会うと、訳もなく嬉しくなり隣に座って一緒に呑んでしまったりする。で結局始発になる。「こんな時間」という時間でも、"程良く"呑んでいる女性客がいる辺りがPubが"程良い"店である証と言えるだろう。
ところで皆さんは酒場で知り合いに偶然会った時にどうされるだろうか。山口瞳さんが著書の中でこう書いている。
「私は、そのとき、高見さんにひとつのことを教えてもらったように思った。それは、銀座の高級酒場へ行ったときは、こんなふうにして飲めばいいということだった。 〜中略〜 その後は、私は、手拭とセッケンを持って銭湯へ行くのと同じ心境になることが出来るようになった。すくなくとも、心構えとしては、それである。知り合いに会ったら、オッという顔をすればいい。フリチンで挨拶をする馬鹿もいない。」(新潮文庫「酒呑みの自己弁護」P.41『最後の高見順さん』より)
これは"目から鱗"であった。これがダンディズムというものだ。自分が必ずしも実践できている訳でないのは前段の通りであるが。もっとも、大抵の場合は「オッ」か会釈程度であるし、小心者の私は迷惑がらなさそうな相手でなければそうは声を掛けられない。それじゃあダンディでもなんでもないわな。
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