インタビュー当日の1月24日はあいにくの雨模様。待ち合わせの喫茶店に予定の15分ほど前に着くと、ほぼ同時に児嶋氏も到着された。フジミ・モーゼルが発売された年から単純に計算しても私よりずっと年上のはずなのだが、意外に若々しい方がいらして驚く。

 工業デザイナー児嶋等氏(右)は、現在41歳。日産自動車、R&Mを経て、車の世界では特に有名なMIMデザインでモーターショウ向けの車の一部を設計したり、バイク、車のデフギアの設計などをされている。同社社長の個人的なつながりから、フジミ模型よりの設計依頼は行われたものということだが…


 

初期型の「ユニット」。「改」とはチャンバー周辺・「機関部シリンダー」の材質・「セミフル切替バー」の形状などの違いがある。分解した初期型。


小隊長(以下 小) まず一番伺いたいお話からなんですが、設計の依頼の経緯はどのような感じで?

児嶋さん(以下 児) 最初から、モーゼルM712を作りたいんだということで話があって、しかもセミオート/フルオートで作りたいということであって。僕自身も最初っからモーゼルM712好きだったんですよ。で、もう1人ユニットの基本設計をした小川さんという人がいて、その人もモーゼル大好きな人で、みんなの息が偶然合っちゃって、やろうよやろうよって感じで。

 じゃ、712という話があって、そこからユニットが出来て…

 いや、その前からユニットはあったんですよ。その当時、バレル固定ってなかったでしょ。バレル固定でフルオートユニット作ろうって事で、半分仕事みたいに作ってたんですよ。(小隊長注:同社では、アミューズメント施設向けに、被弾センサーとセットでフルオートエアガンを試作までしていた)


小 なぜバレル固定で作られたんですか?

児 やっぱりバレルが動くということは、命中精度に影響するということで、固定でないとダメだってことで…。(MIMの)社長は、そのユニット好きじゃなかったんだけど、(車と違って)試作なんて簡単に出来ちゃうから、作って見せたら調子もいいし、良いねってことになって。


"手本"になったマルシン製(左:金属もプラと同じ)とは、実はグリップの溝の本数が異なる。マルシンとマルイは11本。フジミとハドソンが12本。実物は12本だ。ちなみにこれは俗に言う"M1930/ユニバーサルセフティモデル"以降のものであって、それ以前の"レッドナイン"をモデル化したMGCなどはもっと細かく本数も多い。
偏執狂的に書くと、ネジの位置は上から6〜8本目の溝にかかるのが実物で、フジミは7〜8の位置にアレンジされている。
よく見ると分かるが、試作時のベースとしては使われたが、各部の寸法やアールなどは微妙に異なっている。




チャンバー部。正式名称は「給弾シリンダー」

 



試作品と思われる図面の給弾シリンダー


 参考にした物とかは…?

 向こうの担当のKさんって人が、マルシンのプラスティックのモデルガンを持ってきて、これ元にしてくれって。それで図面起こしたんですよ。(小隊長注:この担当者の方と、当時のエアガン担当部署は現在のフジミ模型には存在しない)

 (712は)薄い…ですよね。

 この中に、ユニットを納めるというのが、他のメーカーさんだと出来なかったみたいなんですよ。

 大変だったんですよね。

 いやそれがね、元のユニットがあるじゃないですか、これをセミオートの仕組みとかと合わせてレイアウトするのが…一週間くらいで出来ちゃったんですよ。で、試作に入ろうと。


 これ(チャンバー部の図面を見ながら)、量産機と大分違いますよね。

 量産機は鋳物ですからね。試作機は"削り"で作るので。量産の鋳物用にはフジミさんで図面引き直してると。

 改良型の時はタッチされていない?

 ほとんどしてないですね。(改良型の時は)フジミさんがコストダウンのために(シリンダーを)鋳物にしたんだったと思いますよ。あとね、バルブを接着にしちゃいましたでしょ。あれはね、外して穴でっかくして流量を増やそうっていう人が多くて。でもそうすると連射速度あがって、セミが切れなくなるんですよ。で、クレームで送られてきたのをバルブ外すと、みんな径大きくしてるという。

 そ、それは…言いがかりのような(苦笑)。圧低くなっても弾、出ますよね。やっぱりセミ効かないけど。

児 安定した圧だといいんですけどね。変動するとダメですね。仕方ないから3.5(気圧)に合わせて作りましたね。個人的にですね、ここ(チャンバーのOリングのはまるところ)の径コンマ1位詰めてですね、そうするとちょっと圧高く出来るんですよ。でも詰めすぎるとすぐ弾出なくなる。

 シンプルだけどすごく微妙ですよね。セミの切れを良くするコツみたいなのってありますか?

 それはやっぱ一番はOリングに油付けないこと、ですね。それと圧力上げすぎないこと。さっき言ったみたいに、バルブは穴拡げないこと。

「改」では省略されたらしいビニルテープ
 
お預かりした資料から発見された、抜き勾配の入った量産に近い物と思われる図面。
所有銃を測ってみるとφ10.4

 なるほど(爆笑)。試作機は、動作は快調だったんですか?

 そうですね。量産になるとどうしてもバラつきとか出ますから。(チャンバーを)削りで作るとバレルのガタとかもなくせて…。(量産機は)テープとか巻いて。

 ああ、巻いてありました。

 量産は(チャンバーブロックのバレルが入る部分が、成形した鋳物を型から抜きやすくするための"抜き勾配"として)テーパー付いてますから、バレルの位置決まんないんですよ。

 テーパーはどれくらいかかってるんですか?

 抜き勾配は…どの位なんだろな。鋳物屋さんに任せてんのかもしれない。

 図面には出てない?

 うん〜…

 いじってる人の話だと、固定バレルの割にはすごく命中率の悪い個体もあるって話で。

 そこですよね、やっぱり。


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