随筆/日記
公文書

'13.8.27  随筆 

「インバーハウス グリーンプレイド」のプライド
 以前「美味しい千円ワイン探し」みたいなのが世間で流行った時期があったが、あれのウイスキー版というのは、そういえばあまり聞かない。私は色々試した後、家呑みには「インバーハウス グリーンプレイド」という安スコッチに辿り着いた。

 私の最近の歌舞伎町通いは、ショットバー「モン・シェリー」。価格帯も営業時間もBBLに似ているし、かつてのBBLの常連の一部とよく出会すということもあるからだが、ここの若いバーテンW君がなかなかに酒オタクで愉快なのである。初めての会話が「安ウイスキー、どれがいけるか?」というのも珍しいのではないか。尤も、信濃屋で買ったインバーハウスをぶら下げて酒場に寄る私にも問題があったかも知れない。

 ところでそのインバーハウス、千円ちょっとという価格の割には付け足しアルコールっぽさもないしカラメル臭もなくて悪くないのだが、ひとつ難点がある。たまに、キャップの開かないボトルがあるのだ。

 メタルキャップなので、捻ると下端の破線状の切れ目で千切れるところなのだが、ネジ山が甘くてキャップが空転する個体がある。こうなると素手ではお手上げで、切れ目にマイナスドライバーを差し込んで捻るなどして切り離さないとならなくなる。

 インバーハウスはこの比率が高くて、12本中3本のキャップが空転した。でっち上げでも中傷でもなく、実際に自分の買った物がそうだったのである。

 あんまりなので輸入元の三陽物産に問い合わせてみたところ、検査はしているがそういうボトルがあるという声も返ってきているとか。アバウトだなぁ。クレームにならないんだろうか。開かないし閉められないキャップでは困ると思うが。

 他人事の様に言っているのは、私の場合は生きているキャップを常にストックしているため不良品があっても換えられるからなのである。そう書くと用心深く見えるが、実のところ空き瓶を溜め込んでいるだけの無精なのである。

早い時は週1本のペースなので、ちょっと捨て忘れるとこの状態である。…ちょっとどころではないか 。



右が不良キャップ。円内の様に、モールドのシャープさが怪しい箇所がある。拡大画像有り。

'14.8.15  随筆 

ワゴンの扇子
 駅の催事でこの季節によく見掛けるのが扇子のワゴン。構内や列車内で扇子を使っている人を見掛けるし、ワゴンでもそれなり需要はあるのだろう。

 古典的な物から奇をてらった様なのまで色々ある。ちらと見る限りでは価格は意外に割安な感じではなく、3千円から5千円の物をよく見掛ける。尤も扇子の相場なぞ知らないので、本来がそういう物なのかも知れない。

 だから東京駅の地下で見掛けた派手な扇子が2本千円と聞いてどんな安物だよと思った。尤も、派手と言っても図柄はなく、黒い骨にヨーロッパぽい単色やフラッシュカラーで、ちょっとお洒落に見えなくもない。

 なぜそんな安物に足を止めたかというと、自分が普段使いにしている扇子が傷みかけて来ており勿体ないと思っていたから。前に扇子を無くした時(大体2年に1本無くす)に、母から「おじいちゃんが使ってた物が出てきたんだけど」と渡された。祖父のことだからそんなに安物の訳はない。実際ちゃんとした作りだった。

 暫く持ち歩いていたのだが、段々痛むのが気になって持ち歩かなくなった。普段使いには、やはり安いのを買っておくべきかと考え始めていた。

 そこで見掛けたのが件のワゴンの物だった。いかにも安物だが、古典的な色柄でない分意外にそれっぽく見えない。ちょっと変わった感じではあるが、私も白シャツにグレーのスラックスなんて格好ではないので違和感がないだろう。

 中骨が片面丸見えなのがさすがに恥ずかしいが、そんなことを気にしてるのは買った本人だけだろう(ちゃんとした扇子は貼り合わせた扇面の間に中骨を差して作るが、安物は片面に貼り付けるので一目瞭然)。要(綴じ具)の質感があまりに安っぽいのだが、扇ぐ時はそこを摘まむのが所作だから構わないだろう。

 所作と言えば、扇子を扱う所作のおかしな人が多いという話は随分前に書いたので割愛。取り敢えず通勤・移動時間を少しでも涼しく過ごせれば良いのだが。

'14.8.14  随筆 

静かな街
 終電間際の列車で何とか最寄り駅に辿り着く。仕事は閑だが遊ぶ心の余裕もない。

 駅前の遊歩道を抜け通りに出るがクルマは1台もない。交差点は赤になったが、前を歩く人はそのまま渡ってしまった。

 性分か何なのか、信号無視で交差点を渡る気になれないのだが、傍目には「誰もいない交差点で何やってる?」という態になるのも厭で、こういう時には普段いじらぬスマートホンなぞ取り出して意味なく画面を眺める。

 観る人もない小芝居をしている内に青になり、名ばかりの商店街を抜ける。商店街と言っても市道の両側に個人商店が並ぶだけでアーケードなどでもない。元々はその先の突き当たりにあった巨大団地で回っていたが、寂れた社宅団地が十数年前にゼネコンに売却されるなり遺跡の発掘で開発中止になってしまい、商店も次々閉まってしまった。

 築何十年かという木造二階建ての住居兼店舗が今もいくつか残っており、中には地元で人気の豆腐屋や、地元出身都議の仮事務所なども入っているが、八割方は空き家だ。

 他に、何棟かあるマンションの1階が商用で、家賃がそれほどでもないのか大して客の入っていなさそうな店も細々とやっている。以前はよく覗いていたパブもあったが、既にない。ママがやっているやきとり屋は近くに健在でよく寄っているが。

 その商店街を抜けてすぐが我が家のある通りだ。武蔵野地区によくある新田式の街なので、地主の所有地毎のブロックで行き止まりの道も多い。

 この数日で取り壊している家の黴臭さが、通りを覆う。湿度が高くて臭いが滞留しやすいのだろうか。脚は悪いがしゃんとした老婆が一人暮らししていた木造の平屋があった場所だ。町会報に訃報はなかったので、あるいは親族の所へ行ったのかも知れない。

 帰り着くと夏休み中の娘二人が起きていた。アンダーなテンションを悟られるのも厭なので、早く寝ろとだけ言ってシャワー後ビールを掴んで部屋に入った。

'14.8.12  随筆 

コッチコチのお地蔵さんは女子体育大生の夢を見るか?
 昨夜は寝酒と称してウイスキーをショットで飲り続けていた。確かに眠れる感じがしなかったのだが、このままでは翌朝残るのは確実だなとも思っていた。果たして、確かに残っている感じがする。

 シャワーから出ると丁度朝のドラマが終わるところで、時間は8時15分になったはずだが画面には表示されない。いつもの情報番組ではなく甲子園球場が映し出された。これの時期か。テレビ画面に時刻が表示されなくても壁時計を見れば良いのだが、いつもある表示がそこにないのは不自由に感じる。

 チャンネルを変えると時刻表示があったが、画面は見慣れぬものだった。健康的な色をした肌の筋肉質の男性と、妙に色気のないショートパンツの口の大きな女性が踊っていた。踊り終えると画面が変わり、聞き覚えのある曲が流れ出す。タイトルは思い出せないが童謡である。尤も、私は大抵の童謡のタイトルなんか覚えていない。

「コチコチカッチン、お時計さん」

 昔からある童謡だ。自分も歌ったのかも知れない。だが童謡を歌った年頃の記憶なんて、普通はあるものだろうか? 私にはないな。楽しく幸せだったのだろうか。そう言えば、おやつの時間には、子供向け番組の真似をして祖母に牛乳とバナナを出して貰っていた。

 それにしても変な歌詞だ。「お時計さん」と来た。二重敬語か? 時計に「お」と「さん」を付けるだなんてどういう感覚だろうか。それが許されるのは「お地蔵さん」位だろう。

 だがしかし私は、瓶の隅にこびりついたインスタントコーヒーをぬるま湯で溶かしてマグカップに注ぎ、製氷機から少しカルキ臭のする氷を取り出して放り込み、残り少ないパックの牛乳を全部注いだ物を啜りながら、朝の忙しい時間、その童謡を聴いていた。

 それにしても色気のない女だ。これなら朝のテレビ体操で体育大の女子学生の脚でも眺めていた方がマシだろう。


どちらにも色気はいらないんじゃないか?(天の声)


'14.7.31  随筆 

無事の帰国を祈られない男と、イエローリボン
 最近、舛添都知事の事を「拉致被害者を救う会のブルーリボンバッジは付けたことが無いくせに、セウォル号沈没事故による行方不明者の無事帰還を願う黄色いバッジは付けている」と非難するツイートが流れてきたが、いや待てよ、黄色いリボンって他になかったか?

 メッセージを持ったリボンは、胸のバッヂよりクルマの後部に貼られているステッカーのイメージが個人的には強いのだが、あれは一体何なのだろうか。調べると、あの様な輪状に折った短いリボンは「アウェアネス・リボン」と言って、着用者の社会運動もしくは社会問題に対する支援の姿勢を表明するための物なのだそうだ。

 これもあくまで私個人の印象だが、一番に挙げられるのはピンク(乳がん啓蒙)かな。客観的にどのリボン運動が活発なんてデータはどこにもないだろうけど。レッド(エイズ啓蒙)も印象に強い。しかしそれ以外となると、何色が何だったっけと記憶が怪しい。パープル(女性に対する暴力根絶/膵臓がんの啓発と撲滅:日本)、グリーン(臓器移植啓蒙)、オレンジ(児童虐待防止:日本)というのは健康や制度に関係するものだが、件のブルー(北朝鮮による拉致被害者の救出救出支援活動啓蒙:日本)やブラウン(北方領土返還運動推進)など政治的な物も多い。

 尤もこれらは代表的な物を並べただけで、同じ色でも別の運動で使われていたり、国や地域によって全く意味が違ったりする。前出のパープルなどがそれで、一つの団体が女性に対する暴力根絶を訴えて膵臓がんの啓発と撲滅を進めている訳ではない。ありそうだけど。

 では冒頭のイエローはどうだろうか。これが実に多様で困ってしまうほどの意味が各国にある。
国別「イエローリボン」の意味
アメリカ合衆国 兵士の無事な帰還
日本 障害者支援/自衛官の無事な帰還/脱原発(福一事故以降)
シンガポール 前科者の社会復帰
マレーシア 自由(随分ワイドだな)
オーストラリア アルバート公園の保護(逆にナローだな)
韓国 セウォル号乗客の無事な帰還(そうですか)

これはイエローリボンとは…違うな(苦笑

 舛添氏は一応脱原発派だが…ソウル市長とお揃いで付けてちゃ説明不要か。障害者支援に至っては片山さつきに「障害を持つ婚外子に対する慰謝料や扶養が不十分」と言われてしまう位だからな…(W

舛添知事、韓国大統領と会談へ 安倍首相からメッセージ 2014/7/24 12:12

読書 新潮社ストーリーセラー編集部編「Story Seller annex」
新潮文庫

執筆は…道尾秀介、近藤史恵、有川浩、米澤穂信、恩田陸、湊かなえ…の6名。かつてのアンソロジー文芸誌だったが休刊後違う形で復活したらしい。たまにこういうのを読むのも楽しい。単体ではまず買わない様な作家の作品を読める。たまに外れで読了できない事があるが、このシリーズはあまりそれがない。有川浩のは小説としてはちょっとずるいのだがさすがに読ませる文章だし、この人の二次元規制に関する考えには共感できる。

 


'14.7.4  随筆 

新婚野郎に敬礼!
 半月前の事になるが旧友の結婚披露パーティーがあった。新郎は、本欄で「小隊」と称している某高美術部の同級生。つまり今年48歳のおっさんである。

 この歳になると、旧友と顔を合わせる機会が祝事である事は少なくなる。ところが今回は無条件祝福の機会なのだった。

 そんな希なイベントだが私は例によって間一髪のギリギリ到着となり会場では乾杯の準備が始まろうとしていた。小隊は皆フォーマルというか慶弔用の格好をしていて、つい「式じゃなくて二次会だろ。何だその格好」と言う。「Sさんこそカジュアル過ぎだよ」。カジュアルと言うよりガラが悪いのだが、完全に二次会の装いなのだった。連中と言葉を交わし、勢いでそのまま仲間内だけで乾杯しそうになった。

 乾杯の音頭を待っていると、司会の「それでは新郎のご友人で…」という紹介が始まる。奴の交友関係はよくは知らないが、小隊以外の趣味繋がりは特撮・アクション関係だろう。物腰でそれと分かる一団がいて、誰が出てくるのかと眺めていた。

 そこで、私の名が呼ばれる。友軍陣地に飛び込むなりトラップという感じ。何か喋る程度の心づもりはあったが、まさかの乾杯の挨拶である。ほとんどあわあわで気の利いた事を言うどころか失礼なことばかり言ってしまったのだった。

 その後「填めたな」と言いに言ったら「自分もやったじゃないか」と言われた。…そうだったっけ? 私の結婚の時に? 全く、覚えていない。何せ20年以上前の事だ。結婚したことも忘れてた。

 新婦は年下姉さん女房という、どこかみたいな(もっとお若いが)二人であった。綺麗系の方だが意外や近い趣味なのだそうな。尤もそうでなきゃな、奴の場合は。

 この歳で万事順風満帆という感覚は無い(私だけか?)。しかしそれが許される人種がある。それがヒーロー、もとい新婚野郎だ。

 小隊、新婚野郎に敬礼だ。市ヶ谷警務隊、万歳。
今回の式典の様子は加工画像でお届け。

↑黒/緑縦縞のジャケットに黒い麻の上下。ボカしてもガラ悪な私。

ケーキ入刀…って、お約束かい!!

小隊集合。自然にこのポーズか、お前ら(W

読書 山崎ナオコーラ「ニキの屈辱」河出文庫

ツンデレとか、アーティスト同士の恋愛とか、いろいろ見方はある。でも私はあちこちに見られる些細な心の揺らぎというか濁りというか、そういうものが人の関係というのを左右するのだというシニカルな(場合によりイヤな感じの)視点が、しかしこの人の作品のリアリティなのだという気がする。

 


'13.5.29  随筆 

流浪の私
 歌舞伎町から馴染みの店が消え、“取り敢えず寄る”酒場が無くなった。寄れる店自体がない訳ではない。だが何の用事もなく大して呑む気もないのに取り敢えず寄ってしまうという店はなくなった。それが良いことなのか悪いことなのか、あるいはどうでも良いことなのかは、はっきりとは分からない。

 そこで知り合った皆さんは、結局散ってしまった。SNSをやっている人に関しては動向が分かるのではあるけれど、以前の様にたまたましょっちゅうどこかで出会す訳ではない。

 一部の人は元々4つくらいの店から流れて来てはいたが、皆そこには戻らなかった様だ。その内のある店(M)には数回顔を出して、U上さんとKムさんに偶然出会しはしたが、それはたまたまの話。

 大体、自分自身がそのMに通う姿を想像できない。スタイルが違い過ぎる。同年代くらいの店主や若いけど酒オタっぽい新人店員も悪くないが、30代の男性客が集まって流し放しのTVのバラエティ見ながら談笑っていうのはどうなんだろう。友達の部屋じゃないんだからさ。自分がそれくらいの歳は、もっと緊張感のある酒場で呑んでいた気がするのだが。別に高尚な話や艶っぽい話をしようって事じゃない。話題の“出され方”がダレていて格好悪いだろという事だ。

 結局、無くなったBBL/BBCより前に通っていた店で馴染みだった成田さんがやっているDewというバーに寄っている。サッカー中継が流されていてダーツ台がある所は趣味に合わないが、勿論悪い店じゃないし(場所は柄が悪いが)、何より知り合いの店は落ち着く。

 そういう流れではG街Bar Plastic Model(BPM)にも行く回数が増えたかも。8時開店はネックだし、鞄を預ける店はもう無いが。早い時間はクリシュナに行けば良いか。

 いや別に、わざわざ酒場に顔出さなくても良い訳だが。なんで取り敢えず酒場に寄る習性なんだろうか。…今更か。

このアーチ、常に壊れているイメージだったんだけど、ある日見上げたら綺麗になっていた。


bpmでは大抵シトロンかカラント(のアブソルート)。この日はクラフトワークのカバーメドレーから始まって、自転車テーマの曲あれこれ。他のお客には全く分からない私だけの至福。