困った顔

'10.6.12



 自分で言うのも何だけど私は結構スタイルが良い。だから脚を出すのは嫌いじゃない。でも見方が厭な人が多過ぎて躊躇する。もっとスマートに見てくれれば良いのに。

 すれ違いざまでも、時間は短いけれど厭だなと思うことが多い。むすっとしたしたまま下から上まで視線を這わせておいて、表情も変えずに通り過ぎる。何なのよ。水着のポスター見るのでももう少し表情ってものがあるんじゃないの。私はポスター以下か。

 かと言って、いかにもニヤニヤした感じで眺められるのはもちろん厭。電車でスポーツ新聞見ている人の何が厭って、裸の写真を見せられるからとかいう事じゃなくて、そういう目つきを見せられるのが厭。自分も同じ目を向けられるかと思うと気持ち悪いしうんざりする。

「じゃあ…、どういう風に見られるのが、良いの?」

 真崎さんがちょっと困った様な顔をして訊く。しまった。何の話からこの話になったんだっけ。真崎さんにする話ではなかった。

「真崎さんならどんなでも良いです」
「勝手だなぁ」

 いや全く勝手なんだ。好きな人にならどう見られても良い。むしろ見てくれないとつまらない。

「んー、じゃあ…」

 少し離れて立ち、私の脚をさっと撫でるように眺めると、少し、口角を上げる。

「こんなのは?」
「いや、真崎さんなら、ほんとどんな風に見て貰っても良いです」

 実際感じの悪い見方ではない。

「困ったなぁ」

 そんな話をしている内に時間になった。

 駅では、私が改札を出てロータリーへ降りる階段の所まで、真崎さんは改札から見送る。

「あれ、結構嬉しいですよ」
「でも君、滅多に振り向かないよね」
「だって…ちょっと恥ずかしいですよ」

 すると真崎さんは、照れくさそうに、言った。

「一緒にいると2mと離れないだろ。別れて見送る時くらいしか全身は見られないんだ」

 思わず吹き出してしまい、そして真崎さんの腕を抱えて引き寄せた。

「本当ですね」

 真崎さんはやはり、ちょっと困った様な顔をしていた。