偽動物好き

'01.6.20 

 たまたま寄った喫茶店でのこと。窓際に腰掛け、注文を済ませた後しばらくすると、足下を一匹の大きな猫が通り過ぎた。入り口に子猫の里親を募集する旨の小さな貼り紙が出されていたので、その母猫だなと思った。

 すると店主の中年女性が出てきて「すみませんね」と言う。昼間に不機嫌そうな顔で入ってきて、ノートパソコンを広げているビジネスマンは、喫茶店の中を猫がうろつくのを好まないと誰もが思うだろう。全然構いませんよ、と私。「でもうちには犬がいるから、犬臭くて嫌われちゃうかもしれませんけどね」。店主は安心したように微笑んで奥に下がった。

 ちなみに私は嘘をついている。うちには確かに飼い犬(コロという。よく文中出てくる)がいるが、"外犬"だし別棟の庭におり、日々の面倒は妹か母がみている。私がコロに触れるのは週末の2回の散歩当番の時くらいであるから、臭いが移るわけはない。でもその時は何か動物を飼っていることが伝えられれば、何となく相手も安心するような気がしたのだ。ただそれだけである。

 よくよく考えれば、私はそれほど動物が好きというわけではない。街中で猫を見かけると近寄ったり、枝に留まる鳥をしばらく眺めたりはするが、特に好きだというほどでもないと自分では思っている。愛おしい気持ちが湧いてくるでもなし、ただ、何となくそうしてしまうだけなのである。しかし時々"動物好きな自分"みたいのを意識して見せている気がすることがある。今回のことも同様だ。

 妻とまだつきあい始める前に、夜の街中で見かけた猫にちょっかいを出す私を見て「そんなに動物が好きなの?」と不思議そうに(本当に不思議そうに)言われたことがあった。彼女は大して動物は好きではないのだ。そういう人にそう尋ねられると、いや待てよ、何もそんなに動物好きそうに振る舞うこともないよなと思ったりする。というより少し恥ずかしく感じたりする。偽善者ならぬ"偽動物好き"か。何が悪いんだかよくわからないが。