勝手に疲れる朝

'01.5.31

 吊り革に掴まっていた。途中の停車駅で乗ってきた男が隣に立ち、網棚に鞄を上げようとしてそれが私の肘に強く当たった。革張りの硬い鞄だったので、「あ、どうも」という程度の当たり方でもないのだが、「あ、どうも」どころか、男は全くリアクションなしだった。気付いていない訳もない。それでも3秒待ったがこちらを見もしなかったので腹が立ち、男の額辺りを睨みつつ「痛ぇんだよ」と半ば反射的に言った。

 すると意外なことに男は「すみません」とあっさり謝ったのである。見ると、普通の身なりの"ちゃんとした"ビジネスマンである。大抵こういう人は聞こえなかったふりをするものなので、予想に反して謝られたこちらが困ってしまった。

 そして自分の言い方に品がなかったことを恥じた。「痛ぇんだよ」だなんて、その辺のチンピラ学生じゃあるまいに。「当たりましたけど」とか「痛かったんですがね」位にしておけば良かったのだ。私は今多発している電車周りの暴漢か何かに自分を貶(おとし)めてしまった様な気がして気分が落ち込んだ。

 かといってそこから立ち去るのも変な話だし、わざわざ「いや、自分の言い方も悪かったと思います」などと言う程酷い言い方をした訳でもない。そもそも、硬い鞄を人にぶつけて睨まれても無視する方が本当は間違っているのだ。過日の、雑誌に載った顔写真の話ではないが、私は人当たりの良さそうな普通の人なのだ。だからなめられたのだろうか? 

 そんなこんなで20分、私はへとへとに疲れてしまった。これから一日が始まるだなんてうんざりである。やれやれ。