単3

'01.2.26

 公園で浮浪者らしきおじさんが掃除をしていた。近くには専門学校が二つあり、この公園はそれらの学校の生徒のろくでもないゴミの捨て方が目につく。全ての専門学校がそうだとは思わないが、それらの専門学校には程度の低い子供が多い。

 そのうちおじさんは私の近くまで来て、「近頃のガクセイさんは困ったものだよね」と言った。そうだ、困ったものだ。私はお掃除ご苦労様ですと言った。「ちょっと休もうかな」と言うので煙草をすすめた。

 それからおじさんは「お兄さん、お金を持っているかい?」と訊ねてきた。昼休みで出てきたからこのサンドウィッチを買う分しかもっていなかったよと言うと、「そうか、残念。お金があったら電池を買ってもらおうと思ったのに」と言って、ポケットからシュリンクのかかったままの単3電池を取り出した。「とても安いんだけどな」と未練がましく掌の上で電池を転がした。その電池を使う物は持っていないからその電池はいらないし、いらないものを買うのは無駄なことだから買わない。それにそもそもお金は持っていない、と私は言った。最後の一つ以外は全て本当のことだ。

 おじさんはすごすごとごみ箱の辺りまで引き返し、それからまた掃除を続けた。私はその電池くらい買ってあげてもよかったのだろうか。私は少し心が狭いのかもしれないと、ちょっとだけ思った。

 でも、私は単3を使う物は持っていないので単3は使わないし、使わない物は買わない。

 あの電池を買う人は、その後いたのだろうか。