なにこれモーゼル?




 モーゼルのピストルと言えば、まずブルームハンドルことC96を思い浮かべるだろう。他にと訊かれればHScも有名かとはなるだろうが、ストライカー式の小型ピストルM1910系の話題にはなかなかならない様に思う。

 そもそも名称がM19幾つなのかも今ひとつ明確でない。年号の形式名で言うと例えば「1908と言えばルガー」の様な強い印象がない。尤も当時のメーカーは明確な型式名を付けていなかった。C96だって後のコレクターがそう呼んでいるだけだ。

 モーゼルのこのピストルは大まかにM1910・M1914・M1934の三代に分かれ、更にその複合個体も多く存在する。弱装9パラのM1909や、ロッキング機構のあるM1912などの試製モデルもあるが、その呼称自体がメーカーの正式ではなく、後にそう呼ばれているだけである。改修型として元々のモデル名に/XXと付く場合も同様だ。

 大雑把な違いは以下の通り。M1910とM1914・M1934は大きく異なり、使用弾薬が6.35mm(.25ACP)から7.65mm(.32ACP)に、スライドのセレーションが平面の凹モールドから半円状に盛り上がった上の細かい凸になっており、スライド前部の抉れがなくなっている。M1914とM1934は、グリップが後端に丸みのある膨らみを持たせたワンピース型に。スライド前部のS/N部分が凹んでいるのが大きく異なる。またスライド側面の社名が「WAFFENFABRIK MAUSER〜」から「MAUSER-WERKE〜」に変更されている。見えない箇所では、グリップを外すとフレームの肉抜きが□から○になっているというのもある。しかし基本構造はほぼ変わっていない。

 トイガンとしては、かの頑住吉氏が1996年にガスガンでM1934を、2007年辺りに内部機構を一部再現した疑似BLKとしてM1914をガレキ商品で販売していた事がある。


HScとの比較。側面だとあまり違いが分からないが、握ると小さい。

華奢な手ではないので、あまり基準にならない気もするが。
 マスプロ製品としては、本稿で紹介する中田商店の鋳造アルミの文鎮モデルがあるだけという記録である。ちなみに中田商店の製品は、パッケージにはM1914とあるが、物自体はどう見てもM1934である。

 中田商店の金属文鎮モデルのルーツは古く、元々は創生期の少ないモデルガンの種類を補完するような製品として1965年に発売された。中田商店の戦争博物館展示用に六人部登氏に制作させていたプラ製模型を、亜鉛合金の文鎮(塊)で複製した製品だった様だ。しかし、この時モーゼルM1914はラインナップに含まれていない。

 このマイナーモデルが中田商店の金属文鎮モデルとして現れたのは1993年。当時豊富なバリエーションで販売されていた同店の日本軍ホルスターシリーズ用のアクセサリー(詰め物)の一種としてだった。そのためラインナップも浜田式や南部式など特異な物が並んでいた。史実上日本軍将校用に採用されたのはM1914だったのだろう。ところが既存の原型はM1934しかなかったのではないか。そのため無理矢理グリップ後端の特徴的な張り出し部分を削ってM1914と称したのではないだろうかと類推している。

 それにしても私はなぜこれを買ったのだったか。砂型鋳造ママの甘いモールドに粗い仕上げは、模型としてはおよそ鑑賞に堪える物ではないのだが、サイズの割に重く冷たく、手にした時の存在感は他に代えがたいものがある。モデルが稀少で大戦独物である割には、鋳造文鎮だからそれなり安いという事もある。それよりも、あまり馴染みのないモデルを手にした時に感じる、写真を見るだけでは分からない“この感じ”が何とも言えないのだった。


簡素なパッケージ。3,000円は「それなりに」安かっただろうか…。

Gun誌の広告[クリックで拡大]。左が'93年7月号で、右は'93年9月号。当初「日本陸海軍が使用したピストル20種類ぐらいを順を追って発売します」という大胆不敵な宣戦布告をしていた。また、下段には「無作動のモデルガンは、博物館展示用として製作し、量産していませんが、卸のお問合せは(有)タナカにお願いします」として連絡先が記載されていた。


参考サイトと書籍
頑住吉 元ガンスミスの部屋
('16年11月にniftyのサービス終了のため終了)
機能・構造の理解にとても参考になる。
ドイツの小火器 モーゼルM1910系統
こんなナローなコミュがあるなんてmixiもまだまだ棄てたもんじゃないなと思ったら、トピ主はあのENDOさんだった(W
人生死ぬまでの暇つぶし(旧 なにこれ名銃&珍銃百科) モーゼルM1914…
そのENDOさんのブログ。
小橋良夫「世界のピストル 2」池田書店
発行は1977年と古いが記事の信頼性は高く、1C新書判とは言えモーゼルM19XXの記述が8Pにも及ぶのは和文書籍では唯一。残念ながら絶版。
   


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