第5回(最終回)

父の無念

〜東芝 試作ルポ・ポケット

'99.5.13

 亡き父は、当時ルポのメーカーの本社でOA機器の企画を担当する部の部長だった。その父がある日、「こんな物を(社内で)提案するんだ」と家に持って来たのがこの試作機だった。余程思い入れがあったのだろう。しばらく経ってから、だめだったと苦笑いを浮かべながら再び家に持ってきたのだが、デスクに飾っていたのが結局そのままになってしまった。
 もの自体はルポにPIM機能を付けて小型化したもののようなのだが、当時はこのコンセプトやサイズは理解されなかったようだった。当時は電池を入れれば稼動していたという記憶。外部記憶装置はメモリカードだ。
 その頃、まだ「モバイル」とか「PIM」という言葉はなかったと記憶している。父がその後のリブやモバギの大ヒットを見たらどう思っただろう。

 
 ここでは仮にこれを「ルポ・ポケット」と呼んでいるが、この機械は試作品で、世の中には出ていない。しかも実は本物のメーカー試作品なので、世が世なら最重要企業秘密なのだろうが、もう10年近く昔の話なので時効だと思い、出してしまうことにした。

 この機械が企画された当時、キーボード付きの小型機のほとんどはポケコンの類で、あくまで上級ユーザーの聖域だった。もちろんノートパソコンは全く普及していなかった。その頃大学生でルポを持ち歩いていた私には、オアシスポケットの小型軽量さが羨ましくて仕方なかった。


 『DENTAKU』は今回で最終回。予告の時から反響があったので嬉しかった。ところで予告にも書いたけど、結局、何やら亡き父の思い出話のようにもなってしまっていたかも。なぜだろう。

 予告で触れたクラフトワークのアルバム『コンピューター・ワールド』は、身近なハイテクで"表現"を得るという『DENTAKU』に続き、コンピューターの前に座りコミュニケーションを渇望するタイトルチューン『コンピューター・ワールド』、そして表題を連呼する歌詞の『コンピューターは面白い!』で終わる。

 で、結局自分が手中にした『DENTAKU』とはどんなものだったのだろうか。マックが最高だとも思っていない。『コンピューターは面白い!』と胸を張って言える様な使い方をしている訳でもない。だから残念ながら、私にはまだライナーノーツは書けない。あるいはそれこそが、父が私に託したことだったのかもしれない。…それは考え過ぎか。

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