鉛ビール(多分、前書き)

'01.7.23

 初めて入った店では、私は大抵メニューを見ない。自分の好きな物を注文して、自分の好みに近い様に出てくるかどうかをまず確かめられれば良いからだ。それにさほど複雑なカクテルや希少なモルトを頼むわけではないので、頼む物は大概置いてある。

 まあ、たまにはそうでない物も頼むが。頼んで、出てきて、呑んでみないことには判らないという物もあるからだ。

 試しに鉛ビールを頼んでみる。

 無感情に冷え込んだ夜に鉛ビールは欠かせない。そんな夜は街の匂いも凍てつき、どこか路地の隅にでも留まってしまうのか、街は無臭になる。無臭な夜の町には鉛ビールがよく合う。

 鉛ビールをごっと喉に流し込んで、ああ、ちょっときているなと思うこともあれば、あれ? これは普通のビールかと思うこともある。

 鉛ビールを喉に流し込むと、私は独りぼっちの無機質なものになる。

 そして、昔のこととかを思い出しながら続きを呑む。埋め立て地で空が白むまで眺めていたテトラポッドのこととか、雨の日の幹線道路の路面に漂う雨のこととか。

 

 その様にして私の夜は更ける。