まあ、たまにはそうでない物も頼むが。頼んで、出てきて、呑んでみないことには判らないという物もあるからだ。
試しに鉛ビールを頼んでみる。
無感情に冷え込んだ夜に鉛ビールは欠かせない。そんな夜は街の匂いも凍てつき、どこか路地の隅にでも留まってしまうのか、街は無臭になる。無臭な夜の町には鉛ビールがよく合う。
鉛ビールをごっと喉に流し込んで、ああ、ちょっときているなと思うこともあれば、あれ? これは普通のビールかと思うこともある。
鉛ビールを喉に流し込むと、私は独りぼっちの無機質なものになる。
そして、昔のこととかを思い出しながら続きを呑む。埋め立て地で空が白むまで眺めていたテトラポッドのこととか、雨の日の幹線道路の路面に漂う雨のこととか。
その様にして私の夜は更ける。