ブランドイメージ 〜ルパン3世と007

 ガンに特に興味のない人でも、ワルサーというと「ルパン3世」が愛用するP38を思い浮かべる。あるいは「007 /ジェームス・ボンド」の愛銃PPKの名が上がる。そしてこのコンテンツで取り上げているP99は、そのルパン3世の現代版で愛銃となったり最新作でボンドが使用したりしたことで話題になっている。こう書くと、誰もが知る花形商品を持つ成長企業の様に感じられなくもないが、二次大戦後、とりわけ'70年代以降のワルサー社にはあまり華々しさは感じられない。

 戦後、銃器メーカーとして復興した後に出したP38II(後のP1)も、スライドを単純化したコストダウン版のP4も、改良現代化版P5も、構造上は要するにP38だった。名銃P38の完成度が高過ぎて次が出てこないのだった。新しい製品を出せないメーカーが栄えるわけもない。ワルサーは競技銃にウエイトを置くようになった。米軍トライアル向けに開発された'88年発表の自動拳銃P88は脱P38という意味では革新的だったが、ダブルカラムの大容量マグやブローニングタイプのロッキングシステムなど、つまりはポピュラーで目新しさのない仕様で、そのくせコストを落とすことに失敗したのか考えていなかったのか、高価過ぎて売れなかった。

 その後、ワルサー社はウマレックス社という空気銃なども製造販売しているドイツのメーカーに買収された。私にとっては、H&K社がブリティッシュエアロスペース社に買収されたときよりショックだった。なにせウマレックス社は簡単に言えばトイガンも扱うような卸業みたいな企業だからだ。しかし結果として彼らは"ウリ"がわかっていたということだろうか。かくして流行の素材・機構・形が見事に盛り込まれたP99の登場となったのだ。

 特に興味深い戦略は、ウマレックス・ワルサーはこの銃を実銃だけでなく、CO2ガンやブランクガンで出し、ライセンスと積極的な協力でジャパニーズガン(日本製のトイガン)としても市場に出させたことだ。現在の米国市場のトレンド、オリジナルメーカー製のCO2ガンブームも元はといえばP99から始まったものだ。シューティングカスタムやグッズという今までのガンメーカーのバリエーション戦略とは明らかに違うこれらの戦略は、どの様に結実するのだろうか? 日本に住む日本人である私には、ジャパニーズガンとせいぜいがグッズ類しか手にすることはできないが、今後の動向に注目したい。

 ところで冒頭の2人の有名キャラクターだが、原作者は共に、実はガンオンチでもある。イアンフレミング氏は有識者の読者の指摘からボンドの使用銃をシリーズ途中で25口径のベレッタからPPKに変更しているし、モンキーパンチ氏はいたるところでルパン3世を描いてはいるが、まともなP38が描けていることはまずない。あれは実質はアニメシリーズの設定の中で銃に詳しいスタッフによって明確になったものなのだ。しかしそういう人たちにワルサーを"使わせてしまう"ような魅力、それこそがブランドイメージというもので、新生ワルサーの新戦略の成功の可否は、これを育てるのに成功するかどうかにかかっているようにも思う。